冬子さん(3)

                      

                                                         カメ太郎

 

 

 

 冬子さんと一つになり、このまま時間が止まってしまったら、と何度も何度も思った。心中をも思った。この幸せの中、このまま世の中から冬子さんと一緒に消えて無くなりたい、冬子さんと一つになったまま消えて無くなりたい、でも自殺は最もいけないことだ。この恋の中、無くなりたい。心中とは幸せなようだ、そう思った。

 でも自殺は最もいけないことで、自分には果たさねばならない宗教的使命がある。死んではいけない。

『私、一人になってしまいそうで怖いの』

 強く強く抱き合っているとき、冬子さんは言った。

 冬子さんには兄さんもいるし、4人兄弟だし、そんなに心配する必要はないと思えた。でも親子の中は強いけど兄姉妹の仲は弱いのかもしれない。僕が居る。僕が冬子さんを懸命に守る。そのためにも僕は健康で仕事も順調でなければならないし、社会的に成功して冬子さんを幸せにするのも必要に思えた。それに僕は病気になって死ぬわけにはいかない。冬子さんより先に死ぬわけにはいかない。そのためにも近いうちに大腸ポリープの検査をしなければいけないように思える。

 冬子さんはあと10年15年経っても上品で美しい女性のままでいると思う。僕は年下の女性との縁がないのは自分に魅力がないからだと思えるし、それにたしかに自分を狙っている年下の女性は何人か居るが、冬子さんとここまで進んでしまっている現在、もう冬子さん一筋で行くしかないと思える。

 若い女性は傲慢なところが多いとばかり自分は感じられた。でも長野での女性は傲慢なところはなかった。長野の副会長の言うように長野にずっと居た方が良かったのかもしれない。でも長野はたしかに遠すぎた。

 冬子さんと一つになったまま僕は言った。

『このまま消えて無くなりたい』

『私も先生と一緒に消えて無くなりたいわ』

『このまま永遠に時が止まって欲しい』

『私もこのまま永遠に時が止まって欲しいわ。このまま永遠に時が流れてくれたらいいの』

 自殺はいけない。心中はいけない。自分には宗教的使命がある。

 冬子さんと出会えたのがあと10年早かったら、そうしたら子供も産めて何も問題はなかった。

『このまま永遠に時が流れてくれたらいいの。このまま永遠に時が流れてくれたらいいの』

『このまま永遠に消えてしまいたい。先生と一緒に消えてしまいたい』

 

                              

 

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